私を見つけて




バイバイ、シオン。
あたしはあんたを置いていく。
絶望の中に。
あんたはあたしを見ないから。
あたしの中に、別の誰かを見てるから。
あんたが欲しいのは、あたしじゃないから。
だから…いらない…
だから…あたしは…





































 空は快晴、風邪はそよそよ。
「実になんつ〜か、こう…のどか、よね」
 パンって両手を鳴らして、シャツを伸ばす。我ながらいい洗いあがり。
「洗濯日和だよなぁ♪」
 同じように布を鳴らし、楽しげな声が返ってくる。
 思いっきり溜息が出た。
 そして、つくづく、運命の皮肉ってのが恨めしくなるのよ。
「あのねぇ…何してんのよ、あんた」
 睨み付ける先には、ひょろりとしたシルエット。
 サラサラとした蒼い髪が肩先で風に揺れる。
 琥珀色の目があたしを見て、悪戯っぽく細められた。
 整いすぎの綺麗な顔は、鋭角的というよりは、硬質で甘い幼さを持っていて、どこかガラス細工みたいで、綺麗というか…可愛いっていうか…こいつにこんな表現使う事になるなんて、今でも信じられないんだけどさ。
「何だよ。洗濯物干すの手伝ってやってるだけだろう?」
 いそいそって感じで、もう一枚籠から取り出して、パンと広げる。
 男らしくなりかけた、ほっそりした腕に、大きくて女より綺麗な手が器用に洗濯物を干していく。
「余計なお世話よ。あんたも物好きねぇ」
 そう言ってやると、洗濯籠をひょいっと持ち上げてあいつが笑う。
 すごく素直で無邪気な笑顔。
「そりゃあ、早く終わらせれば、それだけメイに暇できるだろう?」
 言いながら、干された布のカーテンを潜って次の紐へ向かう。
「そこが物好きなのよ。何であたしに構うわけ?」
 洗濯バサミでこの列最後の一枚を干して、後を追うと、もう半分方干されていた。相変わらず素早い奴。
 でも、本当に。何でこんなに構うんだろう。
 こいつには、今あたしに構う理由なんて無い筈なのに…
「何でって…お坊ちゃまは、毛色の変わった新しいメイドに興味持つもんだからさ」
 業と斜に構えた科白に、思わず絶句して、ついでに噴出してしまう。
「自分で言う?」
 まったく、こいつのこういう所は変わんないわね。
 まるで競争するみたいに、洗濯物を干していきながら、ニヤニヤと笑う奴を見る。
 いたずらっ子のようね、まあ、その通りなんだろうけど。
 あたしの前にいるこいつ。
 シオン・カイナス
 でも、あたしの知ってる奴じゃない。
 まず第一に、蒼い髪は肩にかかるくらいのショートで、ボサボサ。
 あたしの丁度目の高さにある、形のいい顎。首筋は繊細な雰囲気を持っていて、華奢に見える。
 もっとでかくなるのを約束しているみたいな、長い腕や脛が思い切りよく伸びて、それがほんの少しアンバランスに見えるのは、先端の手足が大きすぎる感じだからかな?
 琥珀色の瞳は変わらないけど、見透かすような深い光は無くって、ひたすら元気でまっすぐな目。
 そして何処となく子供っぽく、くるくる変わる表情。
 ガゼル思い出すわ。
 そう、子供っぽい、つーか子供。
 今あたしの前にいるシオンは、当年とって14歳の紛う事無きお子様なのよ。
 運命ってケッタイだ。


 あの夜。
 驚いたような顔をして、止めようと手を伸ばすシオンを残して、あたしは帰還魔法を唱えた。
 何もかも捨てる為に。
 傍に居ろと言いながら、絶対あたしを見てないあいつを捨てる為に。
 あたしは自分の世界に帰るつもりだった。
 それなのに、この状況は何?
 あたしは何を間違えたんだろう?
 何より判らないのは…
 
「何だよ、ボーっと見つめて。俺に見惚れたか?」
 ぼんやりしていたあたし近づいて、シオンが手を伸ばす。
 長い指がついっと頬を撫ぜて、こぼれた後れ毛に絡められる。
 あ…この感触、おんなじ…
 長くて暖かな指の感触に引き込まれそうになって、はたと我に返った。
「ばっ…バカな事いわないでよ。だ〜れがガキなんかに惚れるか!!」
 慌てて手を払い除けて、睨み付けると、奴は実に素直に口を尖らせる。
「ちぇっ、三つしか違わねぇじゃん」
「三つも下なら十分ガキよ。バカ言ってないで、さっさと終わらせるわよ」
 あ〜もう。心臓バクバク。
 身体があいつの体温に反応してる。
 あのまま手が頬を包み込んで、次に何が来るのか知ってる。
 あいつが刻み付けた感触。あいつに染み込まされた熱…
 思い出すな!
 今、目の前にいるのはあいつじゃない。シオンだけど、あいつじゃない。あたしの知ってる男じゃない…
 苛ついて、自分の金髪を乱暴に掻き揚げた。

 そう、金髪。
 今のあたしを、ディアーナやシルフィス。ううん。たとえ親兄弟が見たって、誰もメイだなんて判んないんだろうな。
 シルフィスほど鮮やかなじゃ無い、金褐色に近い細い髪。
 目の色はコバルトブルー。顔も別人…
 どうしてこんな事になったんだろう?
 さっぱり判んないのよね…


 悩みつつ、最後の洗濯物を干し終えて、洗濯籠を持ち上げる。
 シーツやシャツや、その他諸々。この館の全ての洗濯物が、風に揺れているのは、なかなか壮観だわ。
 ここはカイナス邸の裏庭。言うなればリネン場。
 そして、ここが今のあたしの職場ってわけ。
 新人にはきつい仕事が回っていくるのよ…
 あたしはここで、メイドをしている。
 何でだって? 
……聞かないで欲しいわ……

「よ〜し。終わったよな♪これで暫くヒマだろう?俺色々手伝ったもんな。掃除だろう?洗濯もしてやったしな」
 嬉しそうに絡んでくるシオンにうんざりしながら、館の裏口へと歩き出す。
 今朝からこいつは何やかやとちょっかいをかけてくる。
 掃除してれば横からモップを引っ手繰って床拭きだすし。洗濯物絞ったり…
「あんたに手伝わせたなんて知れたら、メイド頭のカリナさんに怒られるわよ。今までだって、何度注意されたか判んないんだからね」
 文句を言うと、シオンが拗ねたように睨んできた。
「でも、邪魔はしていねぇだろう?」
 うん。こいつって器用なのよね。
「はいはい、助かりましたわ。ありがとうございました。お坊ちゃま」
 しつこさに音をあげて、ちょっと嫌味に礼を言ってやる。
 それでもシオンは、嬉しそうににんまりとした。
「だろう?俺って有能だもんな♪」
 信じらんないくらい単純だわ…
「でもあたし、暇無いわよ」
 シオンがつけあがらないうちに、釘を刺しておこう。でなけりゃ本当に、夕方まで引っ張り回されるもの。カリナさん、怖いのよ。
「これが終わったら、お遣いに行く事になってるの」
 お子様シオンは、がっくりと肩を落とした。
「なんだよそれ…」
「だって、洗濯の前に、後で買い物行ってくれって、カリナさんに頼まれてたんだもん」
 不平顔のシオンが、何か思いついたように、あたしの顔を見る。
「街へ行くのか?」
「そうよ」
 とたんに、またにんまり笑う。やな予感。
「買いもん、付き合うぜ♪」
 やっぱり…
「あんた、外出禁止くらってるでしょう?」
「気にしね〜よ」
 深く溜息…こいつのこういうところって、生まれつきなんだな。
「あんたが気にしなかろ〜と、勝手に勘当になろ〜と、知ったこっちゃないけど。あたしまで巻き添え食って路頭に迷うのは御免なのよ!」
 まあ、いずれはそうなるんだろうけど。
 あたしが出会ったときのシオンは、十代の頃に勘当されてたもんね。そこを殿下に拾われたらしいんだけどさ。
「い〜じゃん♪そしたら一緒に旅でもしようぜ」
 怒鳴るあたしに、シオンはしれっとした顔をする。いんや、むしろ嬉しそう。
「こ〜んな堅っ苦しい家なんか、さっさとおん出てさ、自由気侭に旅から旅。いいぜ〜♪お前となら絶対楽しいぜ」
 何言ってんのよ、未来の筆頭魔導士様が。
「イーリスみたいなこといわないでよ」
 あ、口が滑った。
 案の定、シオンはきょとんとしている。
「なんでお前、イーリス知ってんだ?」
 あうっヤバ……
「メイド仲間の噂よ。綺麗な坊ちゃんなんですってね」
 そう、この話は聞いた。嘘にならないよね。
「変わり者だけどな」
「類友でしょう?」
 お互いで悪友呼ばわりしてたもんね。
「ひっで〜なぁ。それが職を世話してやった恩人へ言うことか?」
 す〜ぐ恩に着せようとするんだから。
 確かにね、あんたの御蔭でここに居るんだけどさ。喧嘩の仲裁したら気に入られた、ただそれだけだったんだけど……
「それはそれ、これはこれ。感謝はしてるけど、邪魔されるのは迷惑よ」
 きっぱりはっきり言ってやったところで裏口についた。
「ほらほら、坊ちゃんはこっちのドア使ったら駄目でしょう?」
 追打ちに手をひらひらさせると、ものすごくいじけた目であたしを見返してくる。
 お子様シオンをからかうのって楽しい。大人になったこいつは、あたしが何したって余裕かましてて、暖簾に腕押しって諺そのものだもんね。
 ま、反応あったらあったで、大袈裟なリアクションをしてみせて、遊んでるのがまる判り、ホント腹立つ。
 でも、今のこいつは、打てば響くようにストレートな反応が返ってくる。
 なんて楽しい。
 だから、あたしとの会話なんてまるっきり漫才なんだけどさ。それでカリナさんに怒られるんだよね。
「ケチ・・・」
 ガゼルがからかわれた時みたいな顔して、お子様シオンがいじける。
 こんな素直っぼい子が、ど〜すりゃ十二年後にあんなのになるんだろう?
 人生色々あったんだね、シオン。
 それとも、これはこいつのいつもの手?あたしの同情惹こうってヤツ?
・・・でも、やっぱあたし、こいつに弱いわ…
「しょ〜がないわね。出かける前の休憩よ。お茶くらい出しなさいよ」
 案の上、シオンは上機嫌になった。
「おう、とびっきりの茶を煎れてやるぜ」
 部屋へこいよ、とか言いながら、家人用の裏玄関へ走って行く。
 その後姿を見ながら、やっぱりため息が出た。
 ホント、甘いな、あたし。


 カリナさんや、他のメイドさんたちに見られない。ようにしてこっそりシオンの部屋へいくと、あいつはもうお茶の用意をして待っていた。
「おっせ〜ぞ。茶が出すぎちまうぜ」
「うっさいわね、これでも苦労して来たのよ」
 えへ♪ケーキにお茶かぁ。労働の後の一服って至福よね。
 ここのパティシェのケーキって美味しいの。メイド達の休憩の時、たま〜におすそ分けして貰うんだけど、ナカナカなのよ。
 それにシオンのお茶となれば・・・
「いっただきまーす♪」
 ・・・あれ?
 お茶を一口啜って動きが止まったあたしに、シオンが眉を寄せる。
「どした?メイ」
「う…ん」
「なんだ?不味いってのか?」
「そう言う訳じゃないけどね・・・」
 なんて言ったら良いのかな…シオンのお茶だよねぇ…
 こいつ自分のお茶にはものすごく自信あって、何時も飲みに来いって煩かったのに…
 はっきり言って中の上。
 あの絶品の味と香に慣らされてるだけに、これって変な気がするんだけど…
 そう言えば、この屋敷に来てから、シオンのお茶飲むのは初めてだわ。
 ん?ここに来てから……・あ、そうか。
「スキル不足」
 そう、こいつがお子様だって忘れてた。
「これから修行すれば、絶品のお茶くらい煎れられる様になるわよ」
「なんだよそれ」
 ぶ〜たれるシオンに、あたしはすまして言ってやる。
「だってあたし、これ以上に美味しいお茶知ってるもん」
 シオンはめちゃくちゃ不機嫌だ。
「悪かったな、修行不足で。誰の茶だよ、試飲してやらぁ」
 あんたよ、十二年後のあんたのお茶よ。
「おあいにく様、すっごく遠いところに居る人なの。会いたいなら腕磨きなさいよ」
 そうしたらいつか鏡の中にいるわよ。
 ふてくされたあいつを尻目に、あたしはご馳走様と言って席を立つ。
「みてろよ、お前が唸るような茶を煎れてやるからな!」
「はいはい、期待してるわ」
 決意表明も高らかにあたしを睨むシオンは放っといて、自分の仕事に戻るべく、そのまま部屋を後にした。


 カリナさんのお使い品を買って、シェフから頼まれたものを買って・・と。
 その他こまごま、仲間というか、先輩メイドさん達のお使いも済ませて、大荷物で歩く。
「ったくも〜やっぱシオンでも連れてくれば良かったかな〜?下っ端メイドだと思って、好きなだけ押し付けるんだからぁ」
 重い荷物にぼやきつつ、並木道を歩いて、ふと足が止まる。
「そう言えば、ここだっけな……」
 このケッタイなタイムトラベルのはじめの場所。
 元の世界に帰るつもりで唱えた帰還魔法。でもあたしは日本には帰れなかった。
 呪文は間違ってなかったはずよね……
 シオンの寝顔を見ながら、絶望や後悔や悔しさや、なんだか訳判んないぐちゃぐちゃした気分で、それでも暗記した通りに呪文を唱えて、魔力を練り上げて、帰還魔法は発動した。
 クラインに来た時みたいな、何かに引き込まれるような感じがして、見た事無いくらい青ざめたシオンが、あたしに腕を伸ばしかけたところで、目の前が真っ暗になった。
―――メイ!―――
 悲鳴みたいな声で名前を叫ぶのを聞いた時、勝ったって思った…だってあの瞬間だけは、間違いなくシオンは、あたしだけを見ていたもの。
 そして、気がついたらここに倒れてて、周りをいっぱいの人が囲んでて、『大丈夫か?』とか、『怪我は無いか?』とか聞かれたの。
 その人たちの姿を見て、クラインのままだってのはすぐに判ったわ。魔法は失敗してた。
あんまりがっかりしたから、やたらに心配する人達に、大丈夫だって言って、その場を逃げ出して、長いスカートがやたらに足に絡まるから、走りにくくて、そこで初めて、服が違っているのに気がついて、目の前のショーウインドウに映った自分の姿に愕然とした……
 そう・・・今のあたしになってたのよ。
 あんときゃさすがにパニクッたわ。
 真っ白になった頭で、あたしは走り出した。
 走っているうちに何とか気が落ち着いてきて、着いた場所に笑っちゃった。
 そこは王宮。
 しかも、シオンとよく使っていた通用口の方。
 なんだかね〜
 結局、いざって時縋り付こうとした……
 馬鹿だね。
 あいつから逃げ出したのは、自分なのに・・・
 笑ってるうちに泣けてきた。
 自分が何を置いてきたのか、判っちゃったから。
 でもさ、もどれっこないじゃん。悲恋のヒロインよろしく、そっとサヨナラ、なんて呟いて、浸りきりながら歩き出したのよ。まだ変わってるのが自分の姿だけだと思ってたもんね。
 街中に戻ったら、広場で喧嘩騒動。
 しかも一人を大勢で取り囲んでるって感じじゃん。
 こっちは悲しみに浸りきる乙女してるってのに、喧しいったらないから、逆切れおこして止めに入った。武術魔法の一つでもぶちかましてビビらせようとしたら、魔法が一切使えなくなってた。
 あまりの事にまたまた愕然としてたら、大勢相手をにしてた男の子が、風魔法で相手達をあっという間に伸しちゃった。
 ちょっと若くて高かったけど、それでも聞いたことある声に振り向くと、そこに、お子様シオンが立っていた。
 不覚にも、立て続けのショックに負けて、その瞬間、気を失っちゃったのよね・・・
 二度目に気がついたのは、カイナスの屋敷、訳がわかんないまま調子合わせてたら、何時の間にやらシオンの口利きで働くことになって、今に至る。
 状況は整理して考えられるようになってきたけど、やっぱり判んないのは、失敗、というか、タイムスリップと今のあたしへの変化の原因。
 色々考えてはいるのよ。
 もしかしたら、シオンに名前を呼ばれた時、あたしは帰りたくないって思ったのかもしれない。
 心のどこかで。
 魔法を捻じ曲げてしまうほど強く。
 だってキールもシオンもはじめに言ってた。魔法は、術者の意志の力が全てを決めるって・・・
 だから、その反動であたしは姿が変わり、魔力を失った?
 こんな結論でいいのかな?キールなら、もっと突き詰めるんだろうけど、今の時点では、キールもアイシュも七歳だ・・・頼れないよね、どうせ王都にはいないし。
 ど〜したら良いのかなぁ…
「おうや?あの時の娘さんかえ?」
 え?
「ああ、やっぱりだ」
 なんなの?このおばあさん。道の傍の植え込みにしゃがみ込んで、あたしを見てる。
「あんなにすぐに走って、身体は大丈夫だったのかい?」
 そっか、きっと倒れてたのを見てた人なんだ。
「ええ、なんともないです」
 きっと急に現れたのも見てたかも、やだな、魔導士だのなんだのと騒がれる前に、さっさと帰ろう。
「あの…急ぐから、これで…」
 荷物を抱えなおして、並木道を歩き出すと、おばあさんは余計に感心したように頷いている。
「ほうほう、よっぽど運が良かったんだねぇ、馬車に撥ねられたのにぴんぴんしてるんだから」
 はい?
「…今、なんて?」
 思わず聞き返す。
「え?良かったって言ったのさ」
 違う、それじゃなくて。
「馬車って何?」
 おばあさんは、ああ、って頷いて、道の反対に向けて手を伸ばした。
「あっちからふらふらとあんたが歩いてきて、丁度馬車が来たから、危ないよって声をかけただろう?でもあんたは、妙に笑って、そのまま馬車に跳ね飛ばされたのさ」
 なにそれ、あたし知らない。
「憶えて無いのかい?だろうねぇ、どうも様子が変だったからねぇ」
 一人で納得しているおばあさんは、どっこいしょと掛け声かけて立ち上がり、にっこりと手を振ってくれた。
 そして、混乱しいてるあたしを置いてった。
 『元気でおやり』なんて、暢気なこと言ってくれちゃって。
 まあしょうがないか、おばあさんには関係ないもんね。
 またまた謎が増えた。
 どうしてあたしは馬車なんかにぶつかってったの?いいやそれよりも、その後ぴんぴんしてて、走れたのはなんで?
 何処も痛くなかったわよ。
 おばあさんが言ってたみたいに、運が良くて打ち所が良かったのかな?
 もしかしたら、帰還魔法が失敗して、ふらふらしてたのかも…馬車に跳ね飛ばされて、正気に返ったってこと?
 んな、漫画みたいなのって有り?
 いかんな〜このままじゃ堂々巡りだわ。
 屋敷へ帰って、ゆっくり考えよう。
 シオンが煩いけど、顔を見て話してたら、気も落ち着く。
 …あはは…いいや、意地張るの止めよ…
 現金よね、何かある度に、思い出すのはあいつの顔。
 ちょっとだけお子様と大人がごっちゃになってきていないでもないけど、それでもシオンに変わり無い。
 
 そう…だね。
 自分で招いた事だけど、この訳の判らない状態の中で、たった一つ確かなものがある
 “今”のシオンが、あたしに真っ直ぐ視線を向けてくれてる事。
 ただの好奇心だろうけど、今のあたしには、何よりも嬉しい。
 だってやっぱり、あたしはあいつが好きなんだ。
 自分の魔法を捻じ曲げるくらいに…
 
 帰ろう、あいつのところへ。
 後の事は、それから考えるわ。


前編 了

後半はまだかな♪(・~ ・。)(。・ ~・)まだかな♪
プラウザを閉じてください